【KIU BLOG】主役
2014年ブラジルW杯、日本対コートジボワール。
日本が1点リードで迎えた後半17分、一人の男が途中交代でピッチに立った。男の名前は、ディディエ・ドログバ。誰もが知るスター選手。彼の登場により、TV越しでも伝わってくるスタジアムの歓声、熱狂。
一瞬で別の試合になったようだった。コートジボワールは、生き生きと攻撃しだし、立て続けに2得点。あっという間の逆転劇。日本は、試合の流れを取り返すことができず、そのまま敗戦。
当時、中学1年生だった自分にとって、圧倒的な衝撃だった。6歳からずっとサッカーを続けていたが、たった一人のプレーヤーが、一瞬で試合を変えてしまうなんて想像したこともなかった。あの試合のドログバは、「ピッチ上の22分の1」ではなかった。点こそ取っていないものの、自分から見た彼は完全に、主役、ヒーローだった。サッカー選手はこうあるべきだと見せつけられた気がした。舞台の大きさは違うが、自分の出る試合では、そんなプレーヤーになってみたいと心の片隅でおもいながら、大学1回生で腰のケガをするまでプレーを続けた。
3回生になって、せっかくだし大学サッカーに再び関わろうと思い、スタッフとしてサッカー部に入りなおした。正直、最初の1年は、どのような距離感でプレーヤーと接すればよいかわからなかった。もちろんチームメイトとして皆と仲は良かったが、サッカーに対して、試合に対して、自分がどのようなスタンスで臨むべきか難しかった。もしかすると、サッカーをプレーすることにまだ未練があったのかもしれない。
スタッフとしてチームに関わるということは、今まで目指してきたドログバのような活躍をするのではなく、「ピッチ外の50分の1」を求められることも多い。絶対に主役になることはない。よい仕事ができても、ゴールを決めた時のように仲間は抱き着いては来ない。
チームのために出来ているのか、自分のために出来ているのか、もどかしさと不安をずっと感じていた。
しかし、先輩達、同期、後輩達がピッチ上で闘う姿をずっと見てきて、主役になれなくても、自分の想いを選手に託すことはできると感じられるようになった。選手たちは、プレーがうまくいかなくても、連敗が続いても、あきらめずに闘う。勝ちたいという同じ思いをもって、闘ってくれる。
得意のカットインから点をたくさん取る主役。うまく相手を動かしてビルドアップを成功させる主役。中盤で相手をつぶしてボールを奪い続ける主役。声を出しながらチームをまとめる主役。
そんな主役たちを信じ、自分のやれることをやる。選手とコミュニケーションをとる。マッサージをする。試合に必要な道具を準備する。テープを巻く。アップをする。そして、一人一人の名前を呼びながら試合に送り出す。
今までにはなかったサッカーとの向き合い方。少しずつ楽しみ方もわかってきた。
そんな生活もあと少し。最後まで選手たちに想いを託せるように、背中を少しでも押せるように、「ピッチ外の50分の1」を全うしよう。サッカーという大好きなスポーツを全力で楽しもう。
4回生トレーナー 藁科岳人