【KIU BLOG】 悪役
笛が鳴る。足元に転がるボールの重みと、芝を踏む感触だけがやけに鮮明になる。仲間の声や、観客のざわめきすらも飲み込み、世界は四角いピッチへと収束していく。視線の先には、相手FWの動き。呼吸と足音のリズムに合わせ、こちらに迫ってくる圧が、空気を震わせる。相手監督の『行け』という声が響き、足音が加速してくる。進路を塞がれ、逃げ道を奪われる。
全てがうまくいったと思った相手の気持ちごと、最後の一瞬でプレスを折る。その感覚が、たまらなく好きだ。

試合は進んでいく。味方のバックラインの後ろには広大なスペースがある。相手のボランチとFWの意図が一致する。完璧なスルーパスがFWへと送られる。観客席が沸くのも束の間、そこには何故か僕がいる。歓声がため息へ、さらには味方の歓声へと変わる。FWの驚きと苛立ちの混じった顔を見る。「ざまあみろ」――胸の奥に甘い愉悦が広がる。

やっぱり僕は、性格が悪い。
その自覚がふと頭をよぎったのは、高校時代の同期が就活に向けて自己分析を始めたとき。横でその話を聞きながら、ふと自分のことを考えてみた。
かつては自分もFWだった。シュートを狙う高揚も、守備をかわす駆け引きも、潰されるときのいやらしさも知っている。だからこそ、相手が何をしたいのかが見える。

―相手のやりたいことを封じる。その瞬間ほど痛快なものはない。
その小さな悪意は、日常の中ではほとんど顔を出さない。だが、ゴールを守るために立つときだけ、それは相手に向けた確かな力となる。今日もまた、その悪意を胸の奥にひそかに温めながら、次の笛を待っている。
2回生プレイヤー 竹本創一朗
